既存店活性化リエンジニアリングが復活の鍵販売革新2008年6月号寄稿
「どうやって売り切るか」方法論と組織体制を確立せよ
[図表1] 既存店活性化のサイクル
チェーンの中の繁盛店をつくる際にもう一つ大切なことは、「評価軸」を変えることである。評価方法と基準が変われば行動が変わる。
ある小売企業には、商品部にコントローラーという職能がある。端的に言えば、売れていない商品を店舗間移動し、在庫を売り切るという役目を与えられている。在庫処分権限を持ち、売価を下げて売り切ることは、実はバイヤーの成績を下げることを意味する。
おそらく、その企業は、商品ごとにどうやったら売れるのかという「売り切る」力を組織の中にひも付けることを徹底し、それがバイヤーやコントローラーという職能のスキルアップに反映させることを「評価」としたのである。
これは本来、チェーンストア企業であれば当然のことである。
売れないものはコスト負担増である。1品目当たりの経費を算出する上で、店舗家賃から割り返して1日当たりの家賃(保管コスト)を求め在庫日数を考えると膨大になる。
在庫は資金が寝ていることを意味する。例えばプライベートブランド(PB)も大量買付けして倉庫に積まれている。売れた分だけ売上と利益になる。
そうすると見た目上、何となく売れて儲かっているようにみえるが、実は倉庫保管料が月100万円掛かっている場合もある。
恐ろしいのは、それが全体的な経費の中に組み込まれてしまい、見えなくなってしまうことだ。だからある「点」で評価すると、PBは売上にも利益率にも貢献するように見えるが、いわゆるABC(アクティブベースドコステイング)分析をしていくと、本当にPBが利益貢献しているのだろうか。
変動していくコストまで追い掛けて、どれだけ商品当たりの利益が出るかどうかを考えることが必要なのである。
そのためにも、「売上」という評価軸を「利益」に移すことが肝要だ。利益を上げるためには、売上を上げる、経費を下げる、原価を下げる。この3つしか方法はない。
つまり、売上は利益を上げるための手段なのである。だから売上を伸ばすことは利益を増やすことと必ずしも同義ではない。コンビニ業態は価格変動幅が小さいので、売上が伸びると利益も伸びる。他業態はハイ&ローなので、その図式はそのまま当てはまらない。
ただし、アナリストの世界でも減収増益企業があまり評価されないように、経営者が確固たる評価軸を持たなくては、本物の「改革」は不可能である。
経営者にとって、改革に着手する場合、中小規模の企業は不振店から始める方が手を付けやすく効果も見えやすい。大手の場合は、分母が大きいと効果も大きいので、ある特定の手法に絞ってやっていく。その反応が何十億という売上になって返ってくることもある。
だから大手の経営者の中には、旗艦店舗をより磨いて、他店舗のモデルをつくるという方法を取る人も多い。
今、既存店の売上がどんどん落ちていき、新店も競合にさらされ、数字が伸びず自信がない経営者が多い。
その中では、数少ないうまくいっているところは手を付けたくない。そのため不振店から手を付けたがるが、実はお客をつかんでいる良い店も効果が出やすいのも事実。
現場を見れば、毎日来てくれるお客が分かる。昨日シャンプーとリンスを買った人は今日は買わない。価格が他店と同じだったらストックがどれだけ減ったかで買う。価格変動が大きいときは、安くなったときに買う。
将来需要を今の実現売上するときに値引きして買ってもらっている。商圏内の競争が激しいとき、わが店で買ってもらうためのプレミアムを払っているわけである。
確かに食品スーパーが競合企業の新店が出てきたときに仕掛ける「冷蔵庫いっぱい作戦」も効く。しかし、それよりも安い、安くなることが期待できれば意味がない。もっと言えば、常連客であるほど行かない。
回遊層と固定客の違いが分からないから右往左往する。「点」のレシートしか見ない。今日の売上、来店客数しか見ない者は、本当のわが店の「お客様」は分からないのだ。
ただし、単品管理ができていないところは併売のレシート分析はできない。レシート分析できないところに顧客の分析はできない。
1つから複数、複数×複数になればなるほど、高度な分析力が問われる。だから、商品管理、顧客管理の基礎ができていないところにいきなりFSPやCRMといった技術を持ち込んでも、宝の持ち腐れになる可能性が高い。