既存店活性化リエンジニアリングが復活の鍵販売革新2008年6月号寄稿
「不特定多数」を「特定多数」にしていく仕組みづくり
チェーンストアのリノベーション(再創)を考えたとき、増床や改装といった「ハード」だけではなく、顧客軸でのマーチャンダイジング(MD)活動、すなわち「ソフト」が重要だ。
自身の店舗をよく考えてほしい。同じような売場構成になっていても、売上や利益に差がつくのはなぜなのだろうか。もちろん本部が示したプロモーション作業が店舗で完全作業として遂行できないなどの理由もあるだろう。
しかし、最も異なるのは、店舗が所在する地域の「来店客」そのものである。この来店客についてあなたはどれだけのことを知っているだろうか。
商圏分析では、せめてこれぐらいのことは把握しておく必要がある。人口が多いのか少ないのか、高齢者の割合、子供がいる世帯、三世代同居が多いのか少ないのか、持ち家の比率が高いのか低いのか、競合が多いのか。富裕層はいるかもしれない。だが、あなたの店の利用客だろうか。来てくれているとすれば、どのカテゴリーのどんな商品を購入してくれているのだろうか。いつも一緒に買っていくものは何か…。
確かにハードの改装は、来店客数を増やす要素がある。既存店活性で大切なことは、「不特定多数」の来店客を増やす方法と、「特定多数」のお客の両方を同時に増やすことである。
ただし、順番が重要である。一度に双方の政策を実施してはいけない。
「チラシ」でも、チラシのレスポンスを高めるために、どの商圏からどんな人が来店してくれているのかをつかみ、重点的にまくという方法は有効だ。しかし、それはあくまでも来店を促す効果があるだけにすぎない。
お客は来店してくれた時点で「特定多数」になる要素がある。
どんな特売を打ち、特定の商品を買ってくれた人、店に来てくれた人に対して、次に来店してもらうためには何をするか。
仮に週1回来てくれたお客はデシル1とする。来店頻度を上げるために、すぐチラシやDMをまいて、来てくれていなかったお客を呼ぼうとする。
そうではなくて、来てくれたお客にもう1回来たいと思わせる仕組みが必要だ。
1番シンプルなのは、レジで、来てくれたお客に手配りで来店特典のチラシを差し上げることだ。要はまた来たいと思わせられるかどうかなのである。
これは全体の考えがなくやってしまうと、まったく効果がない。チラシと店内販促が別々になっていたりする。チラシは毎週入る。店に行けば何かもらえる。これではコストがどんどん跳ね上がるだけである。
細かくいうと、チラシ1枚2円でつくれたとき、折り込み料で3円掛かるとする。トータル1世帯5円掛かる。お店で渡せば2円で済む。店で配布するものは、もう少し簡単なものでもいい。そうするとコストダウンになる。
来てくれた人にアプローチをすることは、「特定多数」になるという点で効果的だ。例えば、比較的ブランドスイッチが起こりにくいカウンセリング化粧品のサンプルでも、A社をいつも利用する人にB社の新製品のサンプルをあげても喜ばないパターンが多い。
そういうときは、顧客ごとの使用ブランドとロイヤルティ度によって、サンプルを差し上げる際に、ある工夫によって、使用ブランドに応じたサンプルと的確なコメントを付け加えるようにするとよい。そうすれば、お客と店舗側のズレによる無駄がなくなるのである。
このような活動がスムーズにできるためには、オペレーシヨン体制を確立する必要がある。52週MDの基本はたいていのチェーンストアでそろっているが、チラシから店内販促まで、それが「不特定多数」から「特定多数」に促すためのストーリーに基づいて、なおかつ、費用対効果を最大限にする政策ができているかどうか、もう一度確認する必要があるだろう。
「顧客軸」MDとオペレーシヨンは「売上」ではなく「利益」を伸ばすという点で有効だ。
売上=客数×客単価という公式が使われる。故に売上を上げるためには、客数を上げるか、客単価を上げる。客単価が下がっているならば、買上点数を上げる対策を考える。もちろんこれは正しい。もう一つ踏み込んで、客数の中身を考えてみよう。不特定多数のお客が増えているのか、特定多数のお客が増えているのか。
しかし「利益」をベースにしてデシル分析をすると、食品スーパーでは、最も来店頻度が高いお客群(週1回以上来店)で利益の80%、ドラッグストアでは1ヶ月に2回以上来るお客で利益の70%に貢献する。
チラシを打つと下位のデシルが反応する。この層は残念ながら利益に貢献しないのだ。
この意昧を考えた上で、商品部、店舗運営部も「経営政策」に共同参画する仕組みづくりが不可欠なのである。
ターゲットMDの中身と「個店対応」の誤解
店舗はチェーンストアであっても、立地特性によって来店客の質が異なることを前提に、商品構成と品揃えを考える必要がある。
個店対応とは何か。今のところ、POSなどで得られる「売れ筋」に合わせた販促やエンドや催事で地域対応、地域産品の展開という発想が主流だ。
ターゲットMDの本質は、あなたのお店を一番支持してくれる人に合わせて商品構成、品揃えを講じることだ。先述の紙おむつの例の通り、売上は変わらなくても利益が上がる。
ドラッグストアでも、かつては駅前型、郊外型というくくりでMDを行っていたが、年齢層でくくるという試みも行われている。立地特性、利用顧客年齢層の別軸を入れると、同じ販促を打っても効果のある店、ない店が出てくる。そこで初めて店舗のグルーピンクができる。
今、チェーンストアの多くは棚割りパターンを何十種類も持っている企業が多い。しかも、並べ方からフェース数まで、緻密に全部決めてしまう。そうすると棚割りは固定的になり、入れ替えができにくい状況になってしまう。これでは新しい需要を発見したときにすぐに対策が打てないどころか、バイヤーの評価がリベー卜獲得によっているので、地域のお客と懸け離れた商品がずっと居座ってしまうことになりかねない。
大切なことは、例えば、会社として必要なアイテムはどれだけあるのかを決めておき、改廃の明確な基準と手続きを決めておくことだ。
「標準化」とは、ビジュアル的に出来上がった画一的な棚割りを指すものではない。何が起こったときはこうするのだ、という作業の考え方の標準化を意味するのである。
ビジュアルル的な標準を求めると管理する方は楽だが売上は極大化しない。
かつて、繁盛店からチェーンオペレーションに変わるときに、繁盛店はいろいろな現場の技術やノウハウ、思いが詰まっているだけに、多店舗化するときに現場で築き上げられた経験則と蓄積されたソフトの量産ができなかった。
そこで、多店舗化するために、教育体制をつくり、オペレーションを平準化し、作業のばらつきをなくすことで極大と極小の幅を少なくした。その上で店舗のベストブラクティスの水平展開を図り、そのスピードの速さで、チェーンストアは急速に伸びたのである。
今、このチェーンオペレーションの質が組織の肥大化とともに崩れてしまっていることも、「総合」業態凋落の一つの原因だが、これは何も総合業態に限ったことではない。
では、売上が減り、多種多様な店が存在する中で、個店の繁盛店主義に戻らず、有効策はあるのか。一つは、チェーン店の中に再度繁盛店をつくることだ。
データに基づいて判断がなされるという組織に組み替え、その上で店舗と本部の権限と裁量のバランスを再設定し、ただそれが勝手なやり方ではなく、人づくりからMDまで、「繁盛店」の成功モデルづくりとその思考プロセスの標準形を見いだすということが大事である。
棚割りパターンもその意味で、顧客軸で4、5パターンそれぞれのカテゴリーであれば十分である。
「顧客」軸で売れているものを増やす。利益貢献が高いものを増やす。それをどんなレイアウトで、棚割りで訴えるのが最も効果的なのか。そこに行き着く思考プロセスの訓練の場にすることが重要なのである。