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リピーターを増やす核カテゴリーを育成できるかどうかが不振克服のカギ月刊MD2010年7月号寄稿

不振の原因を「競合店」に求めることは多い。しかし、それは暗黙のうちにわが店の競争力は「価格政策」のみということをアピールしているにすぎない。
大事なことは、不振の理由を商品軸で考えるのではなく、顧客軸で考えリピーターをつくる核カテゴリーをいかにつくるかということだ。そのためには不振克服の技術論と組織論を考え合わせて実行していくことが不可欠だ。

 「不振店」対策を考えるとき二つの重要なアプローチがある。
 ひとつは、「不振店」の定義を決めること。つまり、現状の数値を把握し、改善すべき目標数字を決める。当たり前のことだが、実は困難だ。「現状」と「目標」をどう設定し、改善努力のプロセスと結果をどう評価するのか、その中身を詳細に分解できるだろうか。そこが重要なカギを握る。
 不振店舗を一律に、全店売上平均より上か下か、あるいは既存売上を割っているか否かで抽出することが多いが、これはもう一度見直すべきだろう。というのは、不振店にはいくつかの複合要因とパターンがあって、対処方法は一律ではないからだ。
 だから、「一律の経費見直し=コストダウン」というと、個々の店舗にとっては重要な顧客を失いかねない不可欠な経費まで削ってしまうこともある。
 多くの経営者は、「不振店対策」という場合、目先の売上と客数増を達成することに注意が行きがちだが、そのためにコストを度外視して、チラシ特売を乱発したり、やみくもに低価格政策を実行するだけでは、一時の数字はアップするかもしれないが、「長期的な利益増=成長戦略」を描くための抜本的な対策にはなり得ず、低価格競争に巻き込まれ、品揃えの同質化を招き、「じり貧」になっていくのがオチだ。
 しかしながら、一方で売上減、客数減に悩む経営者の焦りやストレスを解消していくことも現場の士気を維持、高揚させていく意味で大切だ。
 つまり、短期的な売上増と客数増を実現する戦術と、中長期で「利益」と「ロイヤルカスタマー」を確実に増やす戦術の二つの方法が「不振店対策」には不可欠なのである。

功には「賞」、能には「官」、労には「禄」

 もうひとつのアプローチは、不振店対策においては「技術論」と「組織論」を明確に分けて、実施することである。
 「技術論」は、不振要因をパターン別に分けて、改善すべき目標数字を実現するためのロードマップに落とし込み、具体的な「作業」に入ることである。
 この「技術論」を実現するためには、しかるべき「組織」を整備することが大切だ。経営者の中には、既存の通常組織の中で不振店対策を行ったり、緊急事態用の組織編成あるいはタスクフォースをつくって対応している場合があるが、どの場合でも、欠けている視点は、成果を成し遂げた時にいかなる報酬をもって報いるかということである。
 裏返せば、「報酬=責任の明確化」である。もちろん、人間のモチベーションには報酬以外のファクターも多々あるだろう。例えば、「社長を男にしてやりたい」、「ジュニアの実績をつくってやりたい」など・・・。しかし、トップの命令を受けてやり遂げることに全力を尽くし、成果を出した者に対しては、「賞(=報酬)」で報いるべきである。
 中国の古典では、功には「賞」、能には「官」、労には「禄」という言葉がある。この場合の不振店対策をやり遂げた実績は「功」にあたる。間違えてはいけないのは、「功」に「官」、つまり役職を与えることである。「官(=地位、役職)」は組織運営において、適材適所でそれぞれの能力が生かされる配置と育成に長けた能力を当てるべきであって、「不振店対策」プロジェクトの実績をそのまま当てはめてはならない。この二つは全く別の能力なのである。
 不振店対策で実績を上げた人間は、自分の能力を基準とするようになり、「官(=地位、役職)」を得ると、自分より能力が低いと思われる人材を淘汰してしまう恐れがある。
 組織には、現場を鼓舞し、不振店対策をやり遂げる突破力のある人間も、地道にコツコツと商品育成や顧客づくりをしてきた人間も必要なのである。ここをトップは間違えてはならないだろう。
 「技術」は「組織」によって生かされる。このような企業文化、さらにインフラ(=仕組み、制度)が無い限り、「不振店対策」は定期的に回ってくるルーティーンイベントに落ちてしまうだろう。