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カテゴリーごとの適正在庫コントロールを経営戦略のベースにできるか否かがカギ月刊MD2010年5月号

SB、NB戦略から見た在庫問題

 今Dg.S企業のSB(*ここではNBメーカーと共同開発した商品を示す。いわゆるダブルチョップ)も卸のセンターを経由して通常のNBの発注と変わらない態勢にしているパターンが多い。SBはNBと品質を変えず専用ロット発注、あるいは中間流通の合理化によって売価を安く提供するのが建前だが、受発注態勢自体はほとんどNBと変わっていないのが実情だ。
 NB商品が存在しない領域において消費者の用途機能ニーズを埋め、そのために原材料までさかのぼる仕様書発注を行うのが本来のSBづくりだが、Dg.S企業の多くは先述のとおりダブルチョップが主流だ。
 医薬品関連では、たとえば風邪薬やドリンク剤など販売数量が見込めるものについては、NBメーカーも個別企業仕様にするパターンも多い。いわゆる「一物多称」と呼ばれるものだ。
 また1年や1年半で売り切ってしまうことを前提に同じ成分のものをパッケージだけ変更したり、売れなくなってきた商品を、廃番にするのではなく名前を変えて他小売業専用の商品にするという方法も展関されている。
 特にOTC(一般大衆医薬品)メーカーは価格競争に加え返品とも相まってリベート負担も嵩み、収益が出にくい状況になっている。であれば本当に数量が確保できて利益が残るのであればPBをつくってもよいと判断するメーカーも出揃ってきたのである。
 こういったNBメーカーの動きは何を示すのか。それは先述した返品リスク負担がメーカーにとって財務上でも大きくなりつつあることを意味している。NBメーカーからすれば動きの悪いブランドを押しこんであとで返品を受けるよりも、SBの方が、店側の売ろうとするモチベーションが高くなり、メーカーとリテールで取り交わす覚書も、SBに関しては倉庫保管科もお互い負担するという形を取りやすいためだ。
 小売側もNBに関して闇雲に返品ができるわけではない。破損だとか基本的には正当な理由が不可欠である。期限切迫品については1年まったく動かない商品で期限まで残り3ヵ月を切れば卸は小売に出荷しないでメーカーに返品する。これは個々の契約の中で取り交わされている条件に応じてだが、その際に次に仕入れたものと返品による出戻金を相殺する。
 ただし大手メーカーであれば、一度人の手に渡ったものをそのままどこかへ転売することはありえないので、これが廃棄ロスとなり、会計上特別損失に計上される部分がじわりと膨らみつつあるのである。返品が常態化して一定の割合になると経費の部分で取り込んでしまうケースもあり、いずれにせよコスト増になってしまうのである。
 SBはそれでもダブルチョップである場合が多いので完全買取ではないが、いくらかリスクを軽減できると考えるのがNBメーカーの偽らざる実感だろう。

「どのようにして売れたのか」ナレッジが貯まらない小売

 Dg.Sはその意味ではメーカーよりも在庫の廃棄ロスという意識は希薄である。アメリカのようにロビンソン・パットマン法があって優越的地位を濫用して納入価格に差をつけることが法律で禁じられている場合は、取引条件においては非常にシビアにならざるをえないが、現在の日本では、そういう状況に至っていない。それよりも店頭在庫が残り1個より10個ある方がお客は安心して買うということから、店頭在庫は売れ筋に限ってなるべく持つようにするという意識の方が小売では大きいようだ。
 その意味でも先述のとおり、平均在庫回転率からカテゴリーおよびSKU単位で売れ数に比例した在庫設定を考えなければならないのである。例えば半年に1個しか売れないものは、在庫は2個でもかまわない。毎日売れるものは、毎日何個売れるかを計算し、大量に買われた時でも対応できるように、売れ筋に比例した在庫量があって、それを補充できる技術と仕組みがあれば、いたずらに店舗作業を増やすことなく、ベンダー配送も絞ることができるのである。
 しかし、日本のDg.S企業の多くは、基本的には在庫コントロールと受発について技術があまり発達しなくても、欠品したらその場で発注しても2日後、3日後には入ってくるという緩いサプライチェーンの中で動いている。そのため、どの店にいくつ店頭在庫を持てば過剰在庫にならず、なおかつ機会ロスも防げるのか、そのための受発注の精度を向上させるという意識はまず出てこないのである。
 企業によっては単純なABC分析管理すらまともに動いていない場合も多い。地域ごと、あるいは店ごとのあるべき在庫の形に対応せず、売れたら売れた分だけ発注するという、半自動的な、売れたら発注するというだけの自動補充システムが現場に入っているので、その商品がどのような在庫数量で、どういう売り方、見せ方、並べ方で期間別の利益を稼いだのかという検証が全くできていないのである。
 言いすぎかもしれないが、その意味では、日本のDg.S企業は「現場のナレッジ」がほとんど蓄積できていないという状況なのではないだろうか。
 実はメーカーも、小売企業のどこの店にどれだけ商品が入っているということがつかめていない。卸企業が各店まで運んだ時には発注量も全部分かっているが、今、物流センターができて、どれだけ、どの店にいくつ入って売れたというのは、卸ですら把握できないのである。
 POS消化は見えても、それがどれくらいの在庫で実現したのかは小売もメーカーもベンダーも把握するすべがないのである。
 それでも現場の店長やトップバイヤー、マーチャンダイザーが把握している場合があるが、これらの情報は属人化しており、会社としてのノウハウの蓄積になっていないのである。
 基本的にはその小売業が定めた顧客ターゲットに対して、用途機能別の、価格ラインも含めた欠落をなくすように分類ができて、これは売っていくもの、これは品揃えとして置いておかなければいけないものということを判断していかなければならない。
 それが明確に棚割として生かされている店舗を継続運営できるかどうかで根本的な在庫問題の解決が図られるのである。