カテゴリーごとの適正在庫コントロールを経営戦略のベースにできるか否かがカギ月刊MD2010年5月号
SKU数、あるいはカテゴリー数を増やすにせよ、減らすにせよ、そこには適正な利益値の「見える化」とターゲッ卜顧客にむけた明確なストーリーづくりが不可欠である。製造から販売現場まで知り尽くす第一線のコンサルタントに在庫コントロールベースの経営方法についてきく。
ドラッグストア(Dg.S)企業においていわゆる「在庫」は特に店舗レベルにおいてはほとんど意識していないといってよいだろう。
よく知られているようにDg.Sの主力カテゴリーである医薬品と化粧品については約9割が返品可能であり、しかも返品する時の費用負担は多くがメーカー持ちとなっている。Dg.S企業において買い取りが原則で廃棄まで行う商品はPBなど一部に限られているのが実情だ。
ナショナルブランド(NB)メーカーによる販売促進費用(リベート)も販売実績に応じて計算されるものではなく、仕入れ時点で入ってくるようになっているところが多い。つまり企業は店舗に商品が配荷(はいか)されることでメーカーからのリベートを獲得していたわけである。
返品の場合は、期限切迫であるとか、化粧品だと口紅の新色の入荷、シリーズの変更という形の理由で行われることが多い。
メーカー、ベンダーの戦略からすれば、基本的には店側に在庫を意識させずに「売ること」に専念してもらうという意図があるのだろう。
しかし現在では配荷すれば一定の売上が立ち、返品による廃棄ロスが経営上、目立たなかった時代はもはや遠のきつつある。返品による廃棄ロス対策はメーカーにとって重要経営課題となっている。一方でDg.S企業においては「買い取って売り切る」という意識に乏しい企業文化が根付いてしまい、メーカーにとって悪循環サイクルができあがってしまっているのである。
最近の例ではマスクがある。これは買い取りが原則で、インフルエンザ需要を見込んでいっせいに供給されてしまい、予測が違った結果、現在業界では5年分のマスクのストックがあるといわれている。
この例は、買い取って売り切ることがリスクを伴うものとして再認識されてしまったかもしれない。しかし後述するが、リスクを負って売り切る販売体制がないかぎり、収益はどんどん下がっていくのが現状なのだ。
買い取って売れない場合、当然、商品は倉庫で寝ている。DC(ディストリビューションセンター)やTC(トランスファーセンター)などを借りている場合も、その間経費がかかっており、安易に大量に買えば安くなるから置いておくという発想は自分の首を締めてしまう事態を招いているのである。
SKU、カテゴリーごとの 回転率を見る
在庫が利益にどのように貢献しているかを示す指標が交差比率である。これは在庫回転率×粗利益率という計算式で一般に200%を超えると貢献度が高い商品、あるいはカテゴリーということができる。粗利益率20%なら年間10回転は必要だということだ。しかし、重要なことは、全体の平均回転率ではなく、SKUごと、カテゴリーごとの交差比率を見る必要があるということだ。
たとえばある大手チェーン企業では化粧品は年間2回転だし、食品は30回転だ。この場合、全体平均から高い、低いと分析するだけでは意味がなく、カテゴリーごとに打つべき対策が異なることに意識しなければならない。さらにはSKUごとにそれぞれの戦略が講じられるべきだが、交差比率をもとにしたカテゴリー戦略を実行していくことで会社全体の経営判断を行っている例は乏しいのが現実だ。
ある大手チェーンもようやく化粧品の回転率を上げていこうということで自前の美容部員を育成し、重点カテゴリーにおいてストアブランド(SB)を投入する戦略を打ちつつある。
なぜ美容部員への教育投資をするべきなのか、どの領域でSBを投入すべきなのか。これらの戦略は、すべてカテゴリーごとの戦略策定がベースになければ全体として効果を発揮しえないのである。